One Moment of Anger Opens Countless Barriers
— 感情を失った代償は、想像以上に大きい
ある日の夕暮れ、ふと読んでいた本のページをめくったとき、一行の言葉が目に留まりました。
一念嗔心、能開百万障門
——『華厳経』より
その瞬間、胸の奥に静かに鐘が鳴ったような衝撃が走りました。
怒りが壊すのは、気分だけじゃない
些細なひと言にカッとなったり、感情のままに声を荒げたり。
そして気づけば、大切な関係やチャンスを自らの手で壊していた。
私自身、そんな経験を何度もしてきました。
あとから冷静になって振り返ると、
問題は出来事そのものではなく、感情に支配された自分だったと気づくことがあります。
怒りの中でもとくに恐ろしいのが、嗔心(しんしん)。
仏教では、これを毒のある怒りと呼びます。
嗔心は、人生を狂わせる毒
嗔心に囚われると、理性も判断力も失われ、
ときに相手を傷つけたいとすら思ってしまうことがあります。
ある友人は、近所との些細なトラブルが発端で、2年にわたる裁判に巻き込まれました。
引けなかったたった一つの感情が、身体と心の健康を蝕んでいったのです。
最終的に裁判には勝ったけれど、
得たのは修復された塀ではなく、壊れた自分自身でした。
感情は、臓器すら傷つける
中医学の古典『黄帝内経』には、こう書かれています。
喜怒哀楽が過ぎれば、五臓を傷つける。
•怒りすぎれば、肝を傷め
•喜びすぎれば、心を乱し
•思い悩めば、脾に負担をかけ
•悲しみは肺に影響し
•恐れは腎を損なう
つまり、感情の暴走は、精神だけでなく身体にも悪影響を及ぼすのです。
嗔心一発、菩薩道断──悟りをも断ち切る怒り
仏典には、こうもあります。
嗔心一発、菩薩道断
修行中の菩薩でさえ、怒りに囚われた瞬間、
悟りの道から外れてしまうというのです。
私たちは聖人ではありません。
だからこそ、怒りにもっと慎重でなければなりません。
怒りは、自分自身を破壊する内なる敵。
人生の舵を、怒りに任せてはいけない
短気な人ほど、人生のどこかでつまずいているように見えます。
•仕事が思うように進まない
•家族との関係がぎくしゃくしている
•友人との縁が切れやすい
それは、本当に他人のせいでしょうか?
もしかすると、怒りに人生の舵を取らせてきた結果かもしれません。
→ 関連記事:怒りの連鎖を断ち切る「格局」という視点
老子の言葉が教えてくれた、本当の強さ
俺は悪くない、あいつが悪いんだ!
怒っているとき、よくこんな言葉を耳にします。
でも、その怒りの裏にあるのは、
感情をコントロールできなかった自分自身ではないでしょうか。
老子はこう言います。
人に勝つ者は力があり、自らに勝つ者は強し
真の強さとは、感情に勝てることなのだと思います。
怒りに飲まれない人の習慣
私が尊敬する80代のご老人がいます。
騒音の多い環境でも、毎朝お茶を淹れ、穏やかに読書を楽しんでいる方です。
腹が立ちませんか?と尋ねたとき、返ってきたのはこんな言葉でした。
若い頃は怒ってばかりで、病院に運ばれたこともあった。
でも気づいたんだ。怒りは、自分が作った牢屋なんだと。
その言葉が、今も心に残っています。
怒りに支配されないための4つの習慣
①反応を保留する
カッとなったら、まず10秒数える・席を立つ・深呼吸する。
たったそれだけで、怒りの波はずいぶん落ち着きます。
このあたりについては、別の記事「心がざわつくとき、どう整える?」でも、詳しく書いています。
②書き出して客観視する
頭の中でグルグルしている感情も、
ノートやスマホに書き出すだけで落ち着きます。
後から読み返すと、なんであんなに怒っていたんだろうと思えることも。
複雑な感情を整理するヒントについて、別の記事複雑さをシンプルにするでも、詳しく書いています。
③体調を整える
怒りっぽくなっているときほど、
睡眠不足・疲れ・空腹がたまっていることが多いもの。
まずは、よく寝る・動く・整える。
それだけで、気持ちはかなり変わります。
④「その怒り、本当に価値がある?」と自問する
その怒りに、時間とエネルギーを注ぐ価値があるだろうか?
そう自問することで、怒りが引いていくことがあります。
忘れる力については、別の記事手放すことを学ぶでも、詳しく書いています。
最後に:怒りを飲み込むことは、負けじゃない
怒らないことは、弱さではなく智慧です。
怒りは、一瞬の快楽と引き換えに、
人間関係・健康・チャンスなど多くのものを奪っていきます。
「一念嗔心、百万の障門を開く」
——その言葉の意味を、ようやく少しだけ理解できた気がしています。
今日から少しずつでも、
感情に振り回されず、しなやかで、清らかな心を育てていけたら。
それが、怒りから自由になる一歩かもしれません。
コメント