No Culture Is the Real Culture — The Netflix Way of Reinvention
——『NETFLIXの最強人事戦略』が教えてくれたこと
『NETFLIXの最強人事戦略(原題:No Rules Rules)』を読み終え、最も強く感じたのは——この会社の文化は決して模倣できない、ということでした。
なぜでしょうか。
それはあまりにも“常識の外側”にあるからです。
多くの企業が信じる「文化」は、安定的で、統一され、継承されるものです。
しかしNetflixの文化は、その真逆にあります。
•忠誠を重んじますか?——Netflixは社員の転職を奨励し、合わなくなれば退職を勧めます。
•世界を変えますか?——彼らは言います。「世界を変えたいのではなく、ユーザーを幸せにしたいだけです。」
•一枚岩を求めますか?——部署ごとに独立して意思決定し、他部署が否定した案を採用することもあります。
つまりNetflixは、「緩くも厳しくもない」、「ルールがあるようで形がない」組織なのです。
言葉で定義しようとすればするほど、その本質は指の間からこぼれ落ちていきます。
では、Netflixとはどんな文化を持っているのでしょうか。
その答えは、彼らが生きる「業界の本質」に隠れています。
一、Netflixの文化は「学べない」
多くの企業は「忠誠」「努力」「団結」といった言葉で自社文化を定義します。
しかしNetflixは、文化の“ブラックホール”です。定義しようとするほど、核心は見えなくなります。
•忠誠ではなく、最適解を追う文化。優秀でも方向性が違えば、ためらいなく手放します。求めているのは「長期雇用」ではなく、「今この瞬間の最高のマッチング」です。
•挑戦ではなく、幸福を追う文化。「世界を変える」スローガンは掲げず、「ユーザーの幸せ」に集中します。挑戦を望む社員には「Googleへ行くことを勧める」とまで言います。
•統一ではなく、自由な衝突を許す文化。部署によっては却下されたアイデアが別の部署で採用されることもあります。意見の一致より、目的の一致を重んじるのです。
•厳しさでも甘さでもない文化。高い淘汰率を維持しながら、休暇は完全自由制度。申請も上限もなく、信頼によって成り立っています。
その本質をひと言で表せば——「文化がないこと」こそが文化なのです。
形がなければ帰属意識をどう育むのか? 伝統をどう継ぐのか?
Netflixの答えは明快です。
「形」ではなく「精神」でつながる。
すなわち“常に前を向き、変化を恐れない”という状態そのものが、文化なのです。
二、Netflixが「型破り」でいられる理由
理由は単純です。彼らが属するのは「コンテンツ産業」だからです。
この業界の鉄則はひとつ——「見られるのは“増加分”であって、“蓄積”ではない」ということ。
どんな人気作でも、視聴率が落ちれば即座に打ち切られます。
過去の成功にしがみつく者は、生き残れないのです。
Netflixはこの法則を、最も徹底して実践しています。
•DVDレンタル時代:他社が1枚ごとに課金する中、会員制の「見放題」を導入。
•配信時代:他社が週1更新の中、「全話一挙配信」を決断。
なぜそんな大胆なことができたのか。
理由はひとつ。
彼らは20億件を超えるユーザーデータを持ち、観客の嗜好を“未来予測”のように読み取れるからです。
Netflixはまるで、金庸の『独り孤(どっこ)にして敗を求む』のように「勝つこと」だけを目的としています。
その極意は「技を極めた者が最後に至るのは、“技を捨てる”こと」——型にとらわれず、変化そのものを力に変えること。
Netflixの文化も同じです。
固定された制度ではなく、次の戦いに備える「構え」こそが文化なのです。
三、私たちはNetflixから何を学べるか
率直に言えば、Netflixの文化をそのまま真似すれば、多くの企業は崩壊します。
なぜなら、文化とは“原因”ではなく“結果”だからです。
文化は、企業が直面する課題を解く過程で生まれるもの。
•Netflixが「変化」を文化にしたのは、変化の激しい業界にいるから。
•もし食品メーカーや製薬会社が毎日方針を変えれば、顧客は混乱して離れていくでしょう。
模倣ではなく、「なぜその形になったのか」を理解することこそ学びです。
そして現代の企業文化の核心は“変形力(アダプタビリティ)”にあります。
かつての文化は鉄筋コンクリートのように、一度固めたら百年動かさないものでした。
目的は「伝統」と「安定」。
しかし今、時代は激流のように変化しています。
求められているのは、流動性と柔軟性を併せ持つ文化です。
•Tencentの「挑戦」は、変化を恐れない文化。
•Alibabaの「信頼」は、変化の中で疑心暗鬼にならないための支柱。
見かけは違っても、根は同じです。
「変化の中で、崩れないチームを作る」こと。
かつて文化は“不変”のためにありました。
今、文化は“変化しても崩れない”ためにあるのです。
「変化を恐れない」については、別の記事【時間の影】で詳しく書いています。
四、あなたの会社は「コンクリート型」か、「水型」か
私たちは今、風のように変わる時代を生きています。
•「不変」を選ぶなら、鉄筋コンクリートのように強固な信念と秩序を築く。
•「変化」を選ぶなら、水のように柔らかく形を変えながらも、芯を失わない仕組みを作る。
文化とは、壁に貼られたスローガンではありません。
嵐の中でも前へ進もうとする“エネルギー”そのものです。
Netflixが教えてくれるのは、文化は人を守るためではなく、戦い続けるためにある——ということです。
「水のように柔らかく形」を見つめ直したい方は、【「上善若水」:水に学ぶ、生き方の哲学】もあわせてお読みください。
結び
静止の時代において、文化は伝統の礎です。
変動の時代において、文化は変化の原動力です。
鉄筋は硬いが、地震には折れます。
流水は柔らかいが、峡谷をも穿ちます。
企業文化は、人を「誰か」にするためではなく、どんな環境でも「生き延びられる者」にするためにあるのです。
『NETFLIXの最強人事戦略』は万能の答えをくれる本ではありません。
しかし、確かにひとつの“窓”を開いてくれます。
真の文化とは、固定されたルールではなく、変化に向き合う「姿勢」そのものなのです。



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