Does Time Reverse? The Universe and the Possibility of a Life Rewind
割れた卵から宇宙の終極の運命まで
「時は逆転し、黄金時代に戻るだろう」――ミルトンのこの詩は、物理学的に驚くべき予言なのかもしれません。
「過去への回帰」
———マーカス・ジョン『奇妙な知識が増えた』
この文章は詩的な序文から始まり、「時間は逆行するのか」という魅力的な哲学的・物理的命題を探究しています。
熱力学第二法則をわかりやすく解説するとともに、宇宙の運命や人間の知覚に関する深い思索を促してくれます。以下は、私の読後感です。
時間の矢と混沌の美学
最も心を打たれたのは、「時間の方向性」と「混沌の確率」とを巧みに結びつけている点です。原子レベルでは時間は対称的であるのに対し、マクロな世界では不可逆性が支配しています。
その緊張関係は、私たちが理解する「過去」と「未来」が、実は静かに進行するエントロピーによって形作られていることを明らかにしています。卵の例はとりわけ印象的でした。完全な卵は「奇跡」であり、割れた卵は「常態」であるという描写は、物理学の説明であると同時に、人生の隠喩でもあると感じました。
「過去・現在・未来」について、別記事で詳しく紹介しています。→【過去・現在・未来──あなたの「時間の見方」が選択を左右する】
宇宙の運命と詩的な終章
宇宙が「大収縮」を迎える可能性について語られるとき、時間の矢もまた宇宙の呼吸の中で震えているように感じられます。「星々が見知らぬものとなり、生きとし生けるものが若返る」という描写には、科学の冷厳さと詩の優しさが共存しています。
それは弥爾頓の詩句「時間は逆行し、黄金時代へと戻る」を思い起こさせます。これは単なる科学的幻想ではなく、秩序と混沌、始まりと終わりに対する哲学的な凝視であると感じました。
「秩序と混沌」については、別の記事【混乱は終わりではなく、変化のはじまり──不確実な時代を、どう歩くか?】で詳しく書いています。
ダークエネルギーと未知への希望
最後に語られるダークエネルギーの「反乱」は、未知への畏敬の念を呼び起こします。私たちの宇宙理解は依然として断片的であり、まさにその不確実性こそが、「時間の逆行」という可能性を幻想以上のものにしているのです。未来は本当に過去へと回帰するかもしれません。それは繰り返しではなく、別のかたちでの再出発なのだと思います。
「不確実性」を見つめ直したい方は、【「存在は合理である」・「不確実性」・「変化を受け入れる」】もあわせてお読みください。
卵と城:時間の直観
スマホのアルバムに二組の写真があると想像してみてください。
•一方は完成したばかりのディズニー城、もう一方は風雨にさらされて朽ちかけた姿。
•一方は無傷の卵、もう一方は床に砕け散った殻と黄身。
誰でも一瞬で「どちらが前で、どちらが後か」を見分けられますよね。なぜなら、城が勝手に修復するのも、卵が殻に戻るのも、私たちは見たことがないからです。
しかし、カメラをズームし、原子スケールに縮小すると不思議なことが起こります。
原子の動きを映した映像を逆再生すると――光子を放出する代わりに吸収する――物理法則上、どちらも矛盾しないのです。
つまり、ミクロの世界では時間は前にも後ろにも進めるように見えるのです。ではなぜ、私たちのマクロ世界では時間は一方向にしか流れないのでしょうか?
秩序から混沌へ:エントロピーの秘密
答えは「エントロピー」という概念に隠されています。直感的にいえば「乱雑さ」の度合いです。
例を挙げましょう。きれいに片付いた机の状態は限られています。しかし、少し本をずらしただけで、机の状態は無数に広がります。ペンはキーボードの横に転がるかもしれないし、本は斜めに置かれるかもしれません。整然よりも乱雑の可能性が圧倒的に多いのです。
これが熱力学第二法則の本質です。孤立系のエントロピーは常に増大する傾向にあります。
トランプを順番通りに並べた状態(高度な秩序)から一度シャッフルすれば、ほぼ確実に乱雑になります。偶然再び完全な順序に戻る確率は、ほぼゼロに等しいのです。
卵の運命:時間は一方通行
卵を追いかけてみましょう。
•高度に秩序だった状態:完璧に整った卵。唯一無二の形です。
•落下の瞬間:殻が割れ、乱れが始まります。
•無数の可能性:二つに割れるか、粉々になるか、割れ方は数えきれません。
•不可逆の結末:完全な卵に戻ることはほぼ不可能です。
「唯一の可能性」から「無数の可能性」へ。これこそが時間の矢の方向です。
宇宙の始まりと終わり
では、なぜ宇宙は最初に秩序ある状態だったのでしょうか?
ここに物理学者の頭痛の種があります。秩序とは「特別」であり、科学は「特別」を嫌います。しかし事実として、宇宙の始まり――ビッグバン――は極めて秩序だった低エントロピーの特異点でした。言い換えれば、時間のゼンマイは138億年前に巻かれていたのです。
では終点はどうなるのでしょうか。
かつては「ビッグクランチ」が提案されました。物質が十分にあれば、重力が膨張を打ち破り、再びすべてを一点に押し戻す。宇宙映画を逆再生するように、星は消え、生命は若返り、砕けた卵も元に戻る――時間が逆流するように見えるのです。
しかし1998年、暗黒エネルギーの発見がシナリオを覆しました。宇宙は収縮するどころか、加速的に膨張していたのです。まるで破裂寸前の風船に、誰かが必死に空気を送り込んでいるかのように。巻き戻しは遠のいたかに思えますが、謎は依然として残ります。暗黒エネルギーはなぜ支配的なのか?そしてそれは永遠に続くのか?宇宙は冷たい熱的死を迎えるのか、それとも壮大な逆転劇を演じるのか?結末は未だ星空の彼方に隠されています。
石工の比喩:秩序のはかなさ
中世の石工を思い浮かべてください。生涯を捧げ、規則正しい石を積み上げて城を築きます。精緻で堅牢、その姿は生まれたての卵のように唯一無二です。
しかし、風雨と戦乱は必ず訪れます。石が一つ緩めば、連鎖反応で壁はひび割れ、塔は傾きます。
•過程:壊れた城の姿は無数にありますが、新しい城は一つしかありません。確率の手に導かれ、城は必然的に廃墟へと向かいます。
•最終的な結末:石は風化して土に還り、卵も塵に混ざります。城も卵も、やがて差異のない混沌に溶けていきます。
これがエントロピーの冷酷な法則なのです。
まとめ:なぜ時間は前に進むのか?
•結論:宇宙が極度に秩序ある始まりを持ち、エントロピー増大の統計的法則に従っているからです。
•根拠:熱力学第二法則。秩序は少数派、混沌は多数派です。
•原因:ビッグバンが低エントロピーの起点を与え、時間の矢の方向を決めたのです。
•展望:宇宙の運命――永遠の膨張か、最終的な収縮か――が、時間が逆流しうるかを左右します。
終曲:宇宙の挽歌
卵の破壊から星の死、幼年期の終わりから文明の衰退まで。私たちが感じる時間のすべては、宇宙が唯一無二の序章から必然の混沌へと歩む挽歌なのかもしれません。
物理学者ボルツマンは「エントロピーこそが時間の矢だ」と喝破しました。
ボルヘスは『分岐する庭の小径』でこう嘆きました――「時間は永遠に分岐し、無数の未来へと通じている」。
そして私たちは、生命と文明と愛を許す一本の道を歩んでいます。
時間が不可逆だからこそ、日の出も、成長も、出会いも、かけがえのない意味を持つのです。



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