Prosperity and Depression: Why There Is No Eternal Investment Myth
「潮が引いたとき、誰が裸で泳いでいたかがわかる。」
――ウォーレン・バフェット
古代ローマの詩人ホラティウスと、19世紀アメリカの大統領リンカーン。
時代も大陸も異なる二人が、同じ真理を語っていました。
ホラティウスは言います。
「いま衰えているものが再び栄えることもあれば、いま栄えているものがやがて衰えることもある。」
リンカーンは、東方の君主と賢者の寓話を紹介しました。
君主が「どんな時にも通用する言葉をくれ」と願ったとき、賢者が書き記したのは、たった五文字。
「これもまた過ぎゆく(This too shall pass)」
リンカーンは、その深さに感嘆しました。
「なんと印象的な言葉だろう。誇らしい時には戒めとなり、悲しい時には慰めとなる。」
この言葉の出典は定かではありません。
しかし投資の世界では、まるで自然法則のように繰り返し証明されてきました。
――市場には、永遠の上昇も、永遠の神話も存在しないのです。
なぜ「永遠」を信じることが、投資で最も危険なのか
1.人間の「振り子」は止まらない
投資家ハワード・マークスは、「振り子理論」で市場心理を表現しました。
市場は常に「楽観」と「悲観」という両極を行き来し、
その間の「理性」に留まる時間は驚くほど短い。
人々が熱狂に包まれるとき、
「今回は違う」「永遠に上がり続ける」と信じ始めます。
その集団的な幻想が、資産価格をありえない高さへ押し上げていく。
しかし木は天まで伸びない。
楽観が頂点に達した瞬間、振り子はすでに反転を始めています。
そして恐怖が市場を支配するとき――
人々は「終わりだ」と錯覚し、あらゆる希望を失います。
けれど、どれほど長い冬でも、春は必ず訪れる。
最も暗い瞬間にこそ、転機が生まれるのです。
この振り子を動かす原動力はいつの時代も変わりません。
人間の「欲」と「恐れ」。それが市場のすべてを動かすのです。
「人間の「振り子」について、別記事で詳しく紹介しています。→【あなたの人生は ―― 振り子か、それともブランコか?】
2.システムは「自己強化」して崩れる ――ソロスの反射性理論
ジョージ・ソロスが提唱した「反射性(Reflexivity)」は、
投資家の思い込みが市場を動かし、動いた市場がまた思い込みを強化するという理論です。
それは、暖房をかけ続ける部屋のようなもの。
•最初は心地よい温もり(=上昇相場・投資家の楽観)
•やがて「あれ、少し熱いかも」と感じても、周囲が平然としていれば「自分が間違っているのか」と沈黙する(=懐疑派の消失)
•そして全員が息苦しくなった瞬間、火事のように一斉に逃げ出す(=バブル崩壊・パニック売り)
外から壊されたわけではありません。
内部の熱が限界を超えたとき、自ら崩壊するのです。
市場の崩壊は外圧ではなく、システム内部の「過剰な確信」から生まれるのです。
「過剰な確信」を見つめ直したい方は、【盲目的な自信こそ、最大の認知の落とし穴】もあわせてお読みください。
一人の物語:「絶望の谷」から「希望の頂」へ

2018年、エンジニアの小林さん(仮名)は、
テクノロジーの未来を信じて貯金のすべてを人気IT株に投じました。
だが2020年、パンデミックが世界を襲い、市場は急落。
株価は半分以下に、勤務先の業績も悪化しました。
深夜、真っ赤な損益画面を見つめながら、彼は呆然としました。
そのとき、リンカーンの言葉が頭をよぎりました――
「これもまた過ぎゆく。」
彼は気づきます。
極端な悲観も、極端な楽観も、どちらも錯覚にすぎないことを。
小林さんは投げ売りせず、“本質的に良い企業”を研究し始めました。
そして毎月の給料から少しずつ、淡々と買い増していったのです。
「底を当てる」のではなく、「恐怖の中でも動く」ことを選びました。
3年後、経済は回復し、新しい技術トレンドが再び追い風に。
彼が信じて積み上げた銘柄は反転し、資産は大きく回復しました。
彼の最大の収穫は、利益ではなく――
どんな相場でも揺らがない心でした。
私たちはこの知恵をどう生かすべきか
「すべては過ぎゆく」と知ることは洞察。
だが、それを行動に変えることこそ智慧です。
1.熱狂のときは「待つ勇気」を――現金を増やす
街が株の話で沸き、理髪店で銘柄が飛び交うとき、
あなたが取るべきは「参加」ではなく「一歩引く」こと。
獲物を狙うハンターのように静かに待ちましょう。
市場は必ず、より良いタイミングをくれます。
チャーチルは言いました。
「過去をより遠くまで見渡せる者こそ、未来をより遠くまで見通せる。」
歴史を学べば気づきます。
太陽の下に“まったく新しい相場”など存在しないのです。
2.絶望のときは「恐れず種をまく」――少しずつ買う
悪いニュースが溢れ、誰もが逃げ惑うとき。
そこにこそ、春の芽は眠っています。
恐怖を抑え、淡々と少額ずつ積み立てる。
一度に勝とうとせず、時間と信念で勝つ。
3.常に「余裕」を残す
借金で投資しない。
失って困るお金で勝負しない。
投資は有限ゲームではなく、無限ゲームです。
最も重要なのは「生き残ること」。
そうして初めて、“これも過ぎ去った後の未来”を迎えられるのです。
結びに
「歴史は繰り返さないが、韻を踏む。」
――マーク・トウェイン
繁栄、不況、停滞、回復。
経済の季節は、自然の循環のように巡り続けます。
昨日の王者が明日の敗者となり、
今日の新星が、かつての瓦礫の上に立つ。
「これもまた過ぎゆく」と知ることは、
現実から逃げることではなく、心に軸を持つことです。
順境のときに驕らず、逆境のときに沈まない。
それこそが、長く市場に生き残る者の唯一の勝ち方。
投資の成功とは、底で買い天井で売ることではなく――
どんなサイクルの中でも、テーブルに残り続けること。
そして、どんな時でも希望を捨てず、冷静さを保つこと。
繁栄のときも、不況のときも。
どうかこの言葉を思い出してください。
「これもまた過ぎゆく。」



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