手放すことを学ぶ——人生の八苦を超える智慧

静けさと智慧の習慣
手放すことを学ぶ——人生の八苦を超える智慧

Learning to Let Go—Wisdom Beyond Life’s Eight Sufferings

手放せない苦しみに気づいたとき

昔から仏教では、人生には避けられない8つの苦しみがあると教えられてきました。

  • 生まれる苦しみ(生)
  • 老いる苦しみ(老)
  • 病気になる苦しみ(病)
  • 死ぬ苦しみ(死)
  • 愛する人と別れる苦しみ(愛別離)
  • 嫌いな人と会う苦しみ(怨憎会)
  • 欲しいものが手に入らない苦しみ(求不得)
  • 心と体の執着からくる苦しみ(五陰熾盛)

この中でも最後の五陰熾盛(ごおんしじょう)は、特に深いものだと感じています。

というのも、これは手放せないことから生まれる苦しみ。言い換えれば、自分の中にある執着や思い込みが、苦しみの根っこになっているということなんです。

そして私は、この手放せない苦しみに、まさにどっぷりとハマっていました。

人に良く思われたいがやめられなかった私

今思えば──私はずっと、人からどう思われるかばかりを気にして生きてきたように思います。

職場では、頼まれた仕事をすべて引き受け、
誰よりも早く出社し、誰よりも遅くまで残る毎日。
そうやって「頑張っている私」でいなければ、
自分には価値がないと、どこかで信じ込んでいたのです。

けれども、ある日、突然体が動かなくなりました。
ストレスと疲労が積み重なり、自律神経が乱れてしまったのです。
朝、目が覚めても、ベッドから起き上がることすらできませんでした。

その日を境に、私はしばらく仕事を休むことになりました。
抱え続けてきたものを、もう握ってはいられなくなったのです。
手放さざるを得なかった——いや、むしろ、ようやく手放せたのかもしれません。

そして、ようやく気づきました。
私はずっと、「自分をすり減らすこと」しか、
“生き方”として知らなかったのだということに。

手放して初めて見えた、本当の自分

休職中のある日、ふと思い立って、近くの公園を歩いてみました。

何もしていない自分に、どこか後ろめたさがあって、
最初は落ち着かず、足取りもぎこちなかったのを覚えています。

けれど、木陰のベンチに座ってお茶を飲んでいるうちに、
ふと気づいたんです。
あれ……私、いま、ちゃんと深く呼吸ができてる。

こんなにも自然に息が吸えているなんて、一体いつぶりだろう。
それは、ほんの小さな気づきだったかもしれない。
でも、私にとっては、それが確かな一歩でした。

社会的な役割を果たしていなくても、
誰かの期待に応えていなくても、
私は、ちゃんとこの場所に存在していていい。

そう思えた瞬間が、心の奥に静かにすとんと落ちた気がしたのです。

本当に必要なものって、どれくらいある?

私たちの日常には、実にたくさんの”荷物”があります。

  • 毎日の忙しさ
  • 人間関係のストレス
  • 将来への不安
  • SNSでの比較と焦り

でも、その中に本当に今の自分に必要なものって、どれくらいあるんでしょうか?

余分なものを抱えすぎていると、心はどんどん重くなっていきます。

だからこそ、足るを知ることが、ヒントになるのかもしれません。

このテーマについては、別の記事「知足常楽──静かな幸福への道」でも、もう少し深く掘り下げています。

手放すための5つの視点

では、どうやって手放していけばいいのか?

私が実際に取り組んできた、小さなヒントを紹介します。

1. 自分が抱えているものに名前をつける

まずは、今持っている”荷物”の正体を知ること。

  • 過去の後悔
  • 誰かの期待に応えなければというプレッシャー
  • こうでなければならないという思い込み

言葉にしてみるだけで、少し気持ちが整理されてきます。

2. 思考のクセに気づく

私はずっと、人に迷惑をかけちゃいけないと思いすぎて、

誰かに頼ることができませんでした。

でも、親しい友人にこんなふうに言われたんです。

頼ってくれる方が、私は嬉しいよ

その一言で、なんだかすごく肩の力が抜けました。

3. ノーと言うのも優しさ

全部に応えようとするのは、優しさではありません。

時には断ることも、相手との関係を守る手段になります。

無理して引き受けて、後で爆発してしまうくらいなら、

最初にそれはできませんと伝える方が誠実だなって、思うようになりました。

4. 感情のゴミをためすぎない

心も、時々は掃除が必要です。

泣いたり、笑ったり、ちょっと吐き出したり。

それだけでも、気持ちってだいぶ軽くなります。

私は毎晩、小さなノートにその日の気持ちを書いています。

今日はちょっと不安だったけど、ちゃんとごはん食べられた

それだけでも、心のどこかがホッとします。

5. 変化を怖がりすぎない

変化って、やっぱり怖いです。

でも、変わらなければ見えない風景もあるんですよね。

私は会社を辞めるとき、周りからたくさん心配されました。

でも、実際に辞めてみたら、自分のペースで働けるようになって、

むしろ自分の人生をちゃんと生きている感覚が生まれました。

変化を受け入れ、視野を広げる力については、別の記事「格局──どこまで歩いていけるかを決める力」で詳しく書いています。

手放すことは、あきらめじゃない

手放すことって、もういいやって投げ出すことじゃないと思うんです。

むしろ、それは

自分にとって大切なものを選び直すこと。

忘れていた自分自身を、もう一度取り戻すこと。

何かを失うように感じるかもしれないけれど、

実は、もっと大切な何かを取り戻しているのかもしれません。

全部を持つ必要なんてない。

本当に必要なものだけを、ちゃんと抱きしめられたら、それで十分なんです。

あなたの手放したいものは何ですか?

もし今、心が重く感じていたら、

無理に前を向こうとせずに、少しだけ立ち止まってみてください。

朝の静けさが満ちる湖畔。 「無理に前を向こうとせずに、少しだけ立ち止まってみてください。」

そして、そっと問いかけてみてください。

  • 何をそんなに恐れているのか?
  • これは本当に、今の私に必要なのか?
  • 手放しても、大丈夫かもしれないって思えないか?

きっと、心の中で何かが静かに動き出します。

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